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人間関係の権力(ランク)はどう生まれる?見えないパワーの見立て方
職場で有益な対話が生じないとき、表面的には「意見の違い」や「スキル不足」があるように見えることがあります。
もちろん時間不足や会議設計などの構造的な要因から生じる場合もありますが、それだけではなく、なんとなく言葉を出させない「目に見えない力」が場を覆っているケースも少なくありません。
そんな「目に見えない力」を、ユング派心理学者であるアーノルド・ミンデルが創設したプロセスワーク(プロセス指向心理学)では、「ランク」という概念で取り扱います。
「ランク」は人間関係の中には必ず生じるものであり、有益な対話を行うためにはこれを自覚的に取り扱うことが必要です。ランクについて知ることは、そのための第一歩となります。
【この記事で分かること】
ランクの4つの種類
プロセスワークにおけるランクとは、「ある状況においてその人が他者に対して持つパワー」のことを指します。
現実の組織においても、必ずパワーが存在します。肩書き、経験、専門性、声の大きさ…。これらを「ゼロにする」ことはできません。だからこそ重要なのは、権力差をなかったことにするのではなく、“影響しているもの”として自覚して扱うことです。
ランクは主に4種類に分けられています。
社会的ランク
経済、健康、ジェンダー、宗教、人種、教育など、文化や社会の構造の中で持つパワーを指します。職場では、学歴・年齢・性別・雇用形態などが“無意識の上下”を生むことがあります。一般的な会社組織では、年長者や役職者の社会的ランクが高いことが多いでしょう。
心理的ランク
困難な状況でも内的安定を持てる力。うまく使えば緊張を和らげますが、無自覚だと相手に「見下された」感覚を与えることがあります。職場でも「難しい状況でも動揺しない人」というのは一目置かれる存在になっているかもしれません。
文脈的ランク
状況や役割に依存するランクを指します。一般的に仕事の中では上司の方が高いランクを持っているかもしれませんが、例えばハラスメント騒動の中では状況が入れ替わってしまうかもしれません。
スピリチュアルランク
大いなるものとのつながりを感じることで生まれる、使命感のようなランクです。うまく使えば知恵に繋がるが、無自覚だと正義や優越性を振りかざす危険があります。社会的公正さを目的としたソーシャルビジネスの創立者や、組織変革に燃えるリーダーは高いスピリチュアルランクを持っているかもしれません。
どのような人の相互作用の中でも、複数のランクが入れ子になって作用するという視点を持つ必要があります。例えば上司が役割上の高い社会的ランクを有していても、物おじしない部下の心理的ランクの方が高いかもしれません。
高いランクは“盲点”になりやすい
ランクの厄介さは、高い側ほど自覚しにくいことです。
高ランクは居心地がよく、抵抗が少ないため、「自分が影響を与えている」と気づきにくいのです。逆に低ランク側は、居心地の悪さとして日々体験するので非常に敏感になります。
これは「善悪」の問題ではありません。ランクは人間関係の中に自動的に生じるものだからです。そして、入れ子にもなりえます。
ある見方をしたときには、社会的ランクの高い役職者や年長者が、無自覚に低いランクの人を抑え込んでいるように見えるかもしれません。一方では、「声を出せない状況が許せない」という信念を持つ人のスピリチュアルランクが、高い役職者や年長者を無自覚に抑圧しているかもしれません。
ランクは自覚的に使えば有益になりえます。社会的ランクの高い人は、自らの権威を上手に使って対話の場を設計することが可能です。スピリチュアルランクの高い人は、自らの願いと信念によって共感的に場を動かすことができるかもしれません。
ランクの無自覚な濫用がもたらす問題
このようなランクが自覚されず使われているときには、次のような現象が起こることがあります。
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沈黙が増える:「言っても無駄」「言うと損をする」という学習が進み、言葉の量が減ります。表面的には穏やかでも、情報が出なくなるので意思決定の質が落ちます。
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分断が生じる:お互いのランクに対する被害者意識が高まり、不安や恐怖に紐づく争いが起こる。
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反発の芽が出る:ランクが無自覚に乱用されると、「冷笑」「無視」「サボタージュ」のような反発が生まれることがあります。これは「誰が悪い」ではなく、ランクが無自覚に扱われた結果の反応として捉えることもできます。
現場でランクの影響を見立てるサイン
ランクは目に見えません。だからこそ、明確ではないが何らかのメッセージを含むものから見立てをする(仮説を立てる)ことが重要です。
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発言の偏り:いつも話す人/話さない人が固定化している
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意思決定のパターン:「鶴の一声」のような意思決定の流れがある
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非言語情報:言葉は「YES」だが、表情・姿勢・声のトーンが固くて暗い
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対立や分断:不信や不安の背景が争いの芽を生んでいる
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空気の質:場の緊張・重さ・ピリピリ感など
ここで重要なのは、分かりやすい事実や利害だけの目を向けるのではなく、背景にある感情的なプロセスにも注意を向けることです。ランクは無意識的にも私たちの感情に影響し、感情は結果として行動にも影響するからです。
ランクの自覚と相互理解を進める方法
無自覚なランクの濫用による問題が生じている際に、自覚を促し問題を中和するには、次のような方法があります。
善悪を判断せず観察する
「ランクを濫用するあなたが悪い」というような告発合戦だけでは、お互いの心理的防衛を上げる関わりになってしまいます。あくまでニュートラルに「起きていること」として問いかけ、ランクの自覚を促します。
「役に立っている面」を探す
問題になっているランクがあったとしても、そのすべてを否定すると取り扱いがかえって難しくなってしまうことがあります。また、私たちは、私たちを抑圧する力に対して、同じような行動によって復讐してしまう生き物です。自分も常にそのランクの種を内側に持っているのです。
だからこそ、ほんのわずかであったとしても、そのランクが「役に立っている面」を探します。それは対立が対話に変わる糸口になります。
役割を入れ替える
意識的に役割を入れ替えてみましょう。上司なら部下の立場に立ってみる。部下なら上司の立場になってみる。あるいはみんなで経営層の立場に立ったとしたら?あえて反対者が主張する見解を熱弁してみたとすると、何が起こるでしょうか?
視点を入れ替えることによって、自他のランクの影響力と背景について理解を進めることができます。
まとめ:ランクを自覚できるようになると、
質の高い意思決定や新たな可能性の扉がひらく
このようにランクへの無自覚さは対話を機能不全に陥れてしまうことがあります。一方で、自覚して取り扱うことができれば、それはより幅広い情報の流通による意思決定の質の向上だけでなく、組織の中で取り扱われてこなかった深い願いや共通基盤の共有による一体感をもたらすきっかけにもなります。
単なる対話のための手段を超えた、共に可能性を拓くための一歩になるのです。
組織開発の落とし穴(権力差を扱わない)を避けるには、まず“ランク”を見立てることが重要です。記事の全体像と合わせて読むと設計しやすくなります。
もし「ランクの影響があるとすれば、どのあたりにあるのか」を整理したい場合は、30分の壁打ちで一緒に見立てます。まずはお話をお聞かせください。
