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セシーズイシイ

武蔵新城/つながりが生み出す〝小さな商い〟後押し

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セシーズイシイグループ代表 石井秀和さん

JR南武線沿いの駅・武蔵新城の周辺には、個人商店をはじめ小規模な建物が並ぶ。沿線の武蔵小杉や溝の口が、駅前再開発によって変貌を遂げたのとは対照的だ。

そんな街に、ここ数年で変化が生まれている。5年前に開業した、独自運営のカフェ『新城テラス』、ラウンジを備えたコワーキングスペース『新城WORK』。大通りから一本入った路地には、築50年ながら、小さな店舗が集まり賑わいを見せる『第六南荘』がある。居住専用だったマンションをリノベーションし、1階を商業スぺースにつくり変えた建物だ。

これらの施設を運営するのは、セシーズイシイグループ。代表の石井秀和さんに、街づくりにかける思いや事業戦略を聞いた。

石井さんの家系は代々、この地で地主として暮らしてきた。石井さんの曽祖父に当たる幸重さんが戦後、農地を宅地化して不動産賃貸管理業をスタート。これが同グループの事業基盤であり、現在は自社物件の賃貸マンション『セシーズイシイ』シリーズ(計約370戸)を管理している。

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〝地域ごと落っこちる〟危機感 コミュニティ創出に活路

2000年に家業に入った石井さん。ただ、しばらくは事業の明るい展望が描けずにいたという。平成バブルの崩壊後、日本経済は長く低迷。2008年にはリーマン・ショックが起き、特に不動産業界は大きな打撃を受けた。

「世間ではハイスペックな建物が主流だったけれど、それでは本質的な差別化にならない。そもそも地域に魅力がなければ、〝地域ごと落っこちる〟と感じていました」(石井さん)。

では、どんな要素があれば、人が集まってくる魅力的な地域になるだろうか。石井さんが見出した1つの答えが、『つながり』。2011年3月11日に発生した東日本大震災で、人と人のつながりやコミュニティの重要性が見直され始めたことがきっかけだった。

賃貸管理業ならば、『場所』と『機会』の提供によって、つながりを生み出すことができる――。

そう考え、コミュニティの創出を事業に取り入れようと決めた。

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コワーキングスペース「​​新城WORK」

昼間人口に着目 コンセプトは『母子がくつろげるカフェ』

その第一弾として手掛けたのが、2016年にマンション共用部にオープンしたカフェ、『新城テラス』。建築設計事務所のピークスタジオに企画・設計を依頼し、共につくり上げた。

 

石井さんは当初、『セシーズイシイ』の入居者が気軽に交流できる場をイメージしていたという。しかし、入居者は20~30代の単身者が中心であり、日中はほぼ不在。単にハコを用意しただけでは、マンションにありがちな〝使われない集会室〟と化してしまうのが容易に想像できた。仕事帰りに立ち寄れるダイニングバーの形態も検討したが、夜間のみの営業では収益性が見込みづらい。

 

そこで、「入居者の交流の場」から「地域の交流の場」へと考え方を変え、コンセプトを練り直した。視点を変え、街の昼間人口のメインである〝お母さんと子ども〟に着目。『母と子どもが憩えるカフェ』にコンセプトを設定し直した。ピークスタジオと新城テラスの小林店長、石井さんとでアイデアを出し合い、温かな基調の内装デザインにし、メニューは月替わりの限定ドリンクや地元川崎産のハーブを使ったドリンクなど、女性が好むものもそろえた。子ども向けドリンクも充実させた。

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母と子どもが憩えるカフェ 「新城テラス」

ソフト面では、『つながり』を生み出す仕掛けを準備。イベントやワークショップ、マルシェの開催だ。開業後、市内の助産院や花屋とのコラボイベント、ハンドメイド雑貨などを販売するマルシェ「マルシェドゥボヌール」の開催をサポート(現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響で概ね休止中)。これらがきっかけで母親同士、子ども同士が親しくなる姿が見られたという。

 

更に、つながりは広がっていった。ピークスタジオが第六南荘に移転入居。また、新城テラスに焼き菓子を卸す予定だった『ichie』が第六南荘でオープン。加えて、セシーズイシイ主催のイベントが契機となり、チーズ専門店『mikoto』も、第六南荘の1階にオープン。同所に店舗を構えるコーヒー豆専門店『mottano』も、同じく新城テラスからの縁だ。

開業前に描いたイメージとは、まったく違う姿となった新城テラス。そのことがかえって、「〝思わぬ価値〟を生み出してくれた」と石井さんは言う。それは、『人それぞれの得意なこと、やりたいことを経済活動につなげる仕組み』として、新城テラスが機能していること。新城テラスを起点として、たくさんの〝小さな商い〟が生まれているのだ。


そういう人たちの「背中を後押ししたい」と話す石井さん。企業理念も「多種多様なつながりの起点になり、幸せが生まれる後押しをする」に刷新した。

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1階部分を改装し店舗をオープン 「第六南荘」

「代々受け継いできたものをどう使うか」今後も賃貸管理が基盤

石井さんは、「ビジネスによって周りの人を幸せにする」という哲学をもっている。単なるお金稼ぎが目的ではなく、関わる人に幸せになってほしい。かといって福祉的観点のみで動いては、自分が疲弊してしまい、人の役に立つのが難しい。
だからあくまで、仕事を通じて、人と人のつながり、ひいては社会に価値を生み出したいのだという。


「僕の仕事は、これからもずっと賃貸管理業。親や先祖から受け継いできたものを、自分の代でどう使うかがミッションです」(石井さん)。

再開発のような派手さはないけれど、手づくりの小さな営みが集まって武蔵新城の街に、活気が着実に生まれている。

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ライター

​フォトグラファー

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鹿島 香子

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小川 麻央