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いのうえのうえん

新百合ヶ丘/仲間と共に、〝農〟をおしゃれに発信

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農家の若手チーム『畑から台所へ。』のリーダーを務める
『いのうえのうえん』代表 井上広基さん

「オーソドックスな品種のほかに、オレンジや紫の白菜、それから『レタサイ』を育てています。レタサイはレタスみたいに肉厚で、サラダにおすすめですよ」。麻生区古沢にある、『いのうえのうえん』の農園主・井上広基さんが説明してくれる。見慣れない、鮮やかな色合い・形の白菜たちだ。


多種多様な野菜を丹精込めて育て、更にそれが引き立つよう、〝おしゃれな見せ方〟にこだわる井上さん。いのうえのうえんを軸に、現在は若手農家のチーム『畑から、台所へ。』での活動に力を注ぐ。そんな井上さんの周りには、太く大きな〝仲間の輪〟が広がっている。

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いのうえのうえんでは常時、80品種以上の野菜を栽培。白菜に限らず、珍しい品種を多く育てているという。価格競争力をつけるために珍しい野菜作りを始めたが、今は食べてくれる人、そして〝仲間〟が喜んでくれることも大きなモチベーションだ。

台風・雹で被害も 柔軟に対応してくれる飲食店

農家が野菜を卸す先と言えば、スーパーなどの小売店が一般的。その点、いのうえのうえんは小売店だけでなく、複数の飲食店に卸している。飲食店との出会いは、こちらから出向いたり、紹介してもらったりなど様々。その中でも「一緒に仕事をしていて楽しい、と思える人たち」(井上さん)との関係は長く続き、最長の飲食店で10年以上の付き合いになるという。

「農業は自然が相手ですから、安定しません。特にうちは露地栽培なので、台風被害をもろに受けるし、雹が降った時は作物が破損したことも。今、野菜を卸している飲食店は、そういう事情を分かってくれています。予定通りに野菜を納品できなくても、その時採れた野菜に合わせてメニューを考えてくれたりと、融通を利かせてくれるんです」(井上さん)。

井上さんにとって、卸し先の飲食店は大切な仲間だ。彩り豊かな珍しい野菜を届けると、仲間たちが喜んでくれる。それが井上さんにとって、野菜作りの原動力だ。

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※いのうえのうえん提供写真

〝白〟のユニフォームにデニムエプロン「気取っていこう!」

井上さんの仲間の輪は、ゆっくりと、太く大きくなっている。『柿生野菜生産者直売会』という、地元農家の組織がある。
その中で、若手が集まって活動してはどうか、という話が持ち上がった。3代目として農家を継いだ、20代から40代までの面々だ。


「各農家で販売品目がかぶっていなかったし、ひとまずやってみることになりました」(井上さん)。

こうして、井上さんがリーダーを務める形で、5人(発足時)の若手農家によるチーム『畑から台所へ。』が発足。合言葉は「気取っていこう!」。従来の農家のイメージが変わるような、洗練された雰囲気を出そう、という意味合いだ。

 

デザイナーにロゴマークの作成を依頼し、ユニフォームは白で統一。「農家に『白』のイメージって、ありませんよね。農作業で汚れるから、皆着たがらないんです。僕たちはちょっとでもおしゃれに見えるよう、あえて白を選びました」(井上さん)。


その上に、デニムエプロンを着用することにした。初めての活動は、2018年に開催された第1回しんゆりフェスティバル・マルシェへの出店。その後も、様々なマルシェに出店した。メンバーたちがそれぞれ、手塩にかけて育てた野菜や畜産品を並べ、ポップで飾り付けてアピール。新鮮で豊富な品揃え、そしておしゃれな店構えは、話題を呼ぶようになった。

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『畑から台所へ。』出店ブース ※いのうえのうえん提供写真

大盛況の『じもと〇しぇ』〝夕採れ野菜〟すぐに完売

すると、思いがけないところから思いがけない声が掛かる。今年3月。小田急電鉄からの、「『じもと〇しぇ』をやりませんか」という提案だ。場所は駅構内にある、改札を出てすぐのスペース。日にちを決め、夕方から一定時間、『畑から』の野菜を販売する――という内容だった。


「もちろん、快諾しました。スーパーなどに卸すのは朝採れ野菜ですが、新鮮な〝夕採れ野菜〟を届けたい、とずっと思っていたんです。『じもと〇しぇ』なら、それができます」(井上さん)。

そして、新百合ヶ丘駅で迎えた当日。
「運転士さんがプロジェクトメンバーに入り、一緒に野菜を売ってくれました。駅長や車掌さんも販売を手伝ってくれ、構内アナウンスでも紹介してもらい、驚きました」(井上さん)。


強力な助っ人たちの応援もあって、野菜は開始から2時間で完売。2回目も、初回の倍近い量の野菜を用意したにも関わらず、3時間で売り切れてしまったという。ユニークな取り組みにより、『畑から』への注目度は更に高まっていった。


「『(マルシェ以外に)どこで商品が買えるの?』と、お客さんからとにかく聞かれました」(井上さん)」。

そして今夏、五月台駅のそばに念願の実店舗をオープン。ユニフォームと同じく、おしゃれな見せ方には徹底してこだわり、陳列などを工夫した。

 

「品名をマジックで書き、段ボールやコンテナでそのまま売る…なんてやり方が従来は普通でしたが、そこは『違う見せ方をしたいね』と。皆で話し合い、1つひとつのディスプレイを細かく決めました」(井上さん)。

現在は農作業のかたわら、メンバーが毎日交代で店番を務める。土日はマルシェへの出店も多く、皆忙しい日々だ。


「いいメンバーがそろっています。誰がリーダーでも、安心して任せられる。(『畑から』は)もう無敵です」(井上さん)。
そう言い切るほどの、全幅の信頼を仲間たちに寄せている。

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『畑から台所へ。』出店ブース ※いのうえのうえん提供写真

「常に『今を、よくしたい』。そうすれば『ずっといい』のだから」

『畑から』として、先のビジョンを話し合うことはないという。「自分たちの野菜をもっと手に取ってもらうために、常に『今を、よくしたい』と思っています。常によければ、ずっといいわけですから」(井上さん)。


先を見通すよりも、目の前の課題を1つひとつ乗り越えてきたからこそ、ここまで来られた――。井上さんは、そう考えている。これからも仲間たちと、その時々の〝今〟に全力で向き合う。

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ライター

​フォトグラファー

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鹿島 香子

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小川 麻央