合同会社ローカルドア ― 人と組織のコーチング
川崎/〝地域の日常〟こそが旅行の醍醐味
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ホテル『縁道』を運営するリットアップ代表 吉岡明治さん
江戸時代、川崎には東海道五十三次の2番目の宿場町、川崎宿があった。その歴史をモチーフとして、川崎市役所(現在建設中)の真横に2020年夏、オープンしたホテル『縁道(えんみち)』。運営を担うリットアップ代表の吉岡明治さんは、これまでホテルの開発や再生と一貫してホテル畑を歩んできた。吉岡さんの歩みを振り返りながら、ホテル縁道、そして川崎の〝古くて新しい魅力〟に迫る。

(『ホテル縁道』提供写真)
のれんが掛かった、木枠の引き戸がエントランス。フロントは昔の帳場箪笥を組み合わせて作られ、壁には豪快に金魚のアートが描かれている。宿場町の賑わいを彷彿とさせるデザインが、随所に散りばめられている。
縁道のコンセプトは、この地に流れる歴史だけではない。1階では『縁道食堂』が営業しており、宿泊者が朝食を取れるのはもちろん、昼は地元住民やオフィスワーカーのランチ利用で、夜は居酒屋として賑わう。あえて、ホテルとの仕切りは設けていない。「気軽に入れる、昔の大衆酒場の雰囲気を再現しています。人は旅先で地元の人と交流したいもの。宿泊客と地元の人がここで出会って仲良くなり、2軒目へ…なんて流れになってくれたら」(吉岡さん、以下同)。
リゾートホテル再生に従事「どんな地域にも魅力がある」
吉岡さんは大学卒業後、全国でホテルを経営する藤田観光に入社した。ホテルの開発や閉鎖に携わった後、ホテル再生を志し、その実績をもつUDS株式会社へ07年に転職。石川県のリゾートホテルの再生に参画した。
当初は売り上げの伸長に苦戦し、営業先を回る日々だったという。その中で、吉岡さんの〝視点〟が変わり始めた。「地域にもそのホテルにも、ずっとマイナスのイメージを持っていました。建ち並ぶのは古い旅館ばかりで、ホテルのオーナーも頻繁に代わっていましたから。でも自然豊かで、とにかく海産物が美味しい。『九谷焼』という伝統工芸も継承されている。素晴らしい資源があることに気が付いたんです」。
その後も各地で複数の案件を手掛け、どんな地域・物件にも必ず魅力があること、それを起点にコンセプトを練り上げれば、事業が軌道に乗ることを確信したという。

広がる地域のつながり「点(ホテル)ではなく面(街)で盛り上げたい」
そして吉岡さんが着目した地域が、川崎だった。「大阪・ミナミが訪日観光客に人気ですが、空港へのアクセスのよさや、昔は治安のよくないイメージだったことも含めて、川崎にも共通する要素が多い。何より〝煙もくもくの昭和の居酒屋〟のような、川崎のありふれた日常こそが、旅行者には魅力に映ると感じました」。
15年、川崎駅近くで事務所ビルを再生したホテル『オンザマークス』の立ち上げと開業後の支配人に就任。再び足で稼ぐ営業に奔走し、終電後の駅前でのビラ配りもこなした。
地道な努力が徐々に実り、3年後には稼働率が80%超に。この間、数字に表れない果実も得た。地域の、ヨコのつながりだ。シネコン、クラブそしてハロウィンで長年まちづくりをしていた『ラチッタデッラ』と地元のみやうち着物学院と協力して、着物で市内を観光する「KAWASAKI KIMONO WALK」というイベントを訪日客向けに実施するなどした。
「ホテル運営は、点(ホテル)ではなく面(街)で盛り上がることが重要」。そう気づいた吉岡さんのもとには、街づくり関連の誘いが舞い込み、やがて地元の若手経営者とのつながりが生まれた。その1人、ヤマネノシゴトグループの代表とのご縁で同グループが取得した土地にホテル縁道を建て、吉岡さんが新たに立ち上げた『リットアップ』が、その運営を担うこととなった。

インバウンド需要に期待〝TOKYOよりKAWASAKI〟の未来へ
海外からの入国増が見込まれる今後、一層の盛り上がりが予想される縁道。「観光地として、『TOKYOよりKAWASAKIが面白い』という風潮になれば、と思います」(吉岡さん)。
『歴史』と『地域の日常』。川崎の魅力に光を当て、縁道から発信していく。
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ライター
フォトグラファー

鹿島 香子
